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嵯峨野の建築

「青々した竹が川風に揺らぐ」はじめに嵯峨野からうけた印象が、この建築を生む発端でした。ここは料亭であり、いまとなっては数少ない日本を体現できるところです。

衣、食、住、すべてを整え、最適な心遣いで来る人をもてなす。それには周到な心配りと繊細さが要求され、建築もそれに相応しい形がもとめられましょう。

建築は数寄屋で纏めており、茶の湯に始まった数寄屋は、日本人の自然観を根底に育まれました。しかし近年では、材料や職人不足もあって、我が国の建築ながら省みられることも少ないのが現状です。

ここ那珂川に面しては、かつて博多花柳界が軒を連ね、隆盛を誇りました。その一画にあって、これからの料亭像をどう結ぶか。これまで女将若女将と対話を重ね、慎ましくも凛とした存在感が漂う姿を描いてみました。

建築は豪華さや珍奇な造形を避け、材料を活かす目と繊細な仕事で、もてなしの背景に徹するよう整えました。幸い、材料は青森の山から直に木を伐って揃えることができ、職人も棟梁はじめ、手練れの大工が結集しました。

「異風になく、結構になく、さすが手際よく、目に立たぬさまよし」(珠光紹鷗時代之書) 造形の主眼をそこにおき、滲み出る佇まいを意識しています。

語り手:建築家 前田伸治氏

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